支援や補助を活用してベストな齢者向け住宅選択をするには?【高齢者の住宅支援制度を考える】

高齢になると、配偶者を亡くすなどで家族構成が変わったり、通院や買い物の利便性を考え、便利なところへの転居を考える人も多い。

目次

  • 高齢者の住宅支援制度は、意外と知られていない
  • 家賃補助もある住宅セーフティネット制度
  • 介護サービス提供から楽しむための施設まで、多様な高齢者向けの住まい
  • 健康寿命のその先まで見据えたライフプランを

高齢者の住宅支援制度は、意外と知られていない
しかし、高齢者が住宅の賃貸借契約を結ぼうとしたとき、高齢であることを理由に入居を断られるケースがあり、実際に内閣府の調査(平成30年度 「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」)でも60歳以上の賃貸居住者のうち19.5%が「高齢期の賃貸を断られる」ことを不安に感じている。高齢者が住宅を選ぶとき、その選択肢は限られているのが現状だろう。

高齢者が住宅困窮者とならないために、住宅選びはどうすればいいのか。高齢者向けとされる住宅にはどんなものがあって、どのように選べばいいのか。また、補助制度などにはどんなものがあるのだろうか。
そのあたりを、この問題に詳しいファイナンシャルプランナー 株式会社THE FP コンサルティング代表取締役 峰尾茂克さんに聞いた。

「高齢者向け住宅支援に力を入れている自治体は多くあります。国の施策として入居者が有利に借りられる住宅制度もあります。ただ、まだまだ一般的に知られていない制度もあり、できるだけ多くの情報を得ることが重要といえます」(峰尾さん)

高齢社会が進展する日本で浮き彫りになりつつある高齢者の住宅問題を、専門家への取材を通して考えるシリーズ。4回目の本稿では、さまざまな種類の高齢者向け住宅やその探し方、入居に際して活用できる補助制度などを探る。

企業などが実施したアンケートで、実際に入居を拒否された経験がある高齢者も多数いることが分かっている

家賃補助もある住宅セーフティネット制度

住宅の貸し手、借り手にもメリットの多い、住宅セーフティネット制度のサイト https://www.safetynet-jutaku.jp/guest/index.php

高齢者だけでなく住宅の確保に配慮が必要な人は増え続けている。住宅確保に困窮する低額所得者等を対象とした公営住宅が不足する一方で、民間の空き家や空き室は増加の一途だ。
そこで、それらを活用し住宅確保に特段の配慮が必要な人の入居を拒まない賃貸住宅の供給を目的に2017年に創設したのが、住宅セーフティネット制度だ。制度に登録する住宅には、耐震化やバリアフリーなど一定の基準を設け、この基準に適合するために物件の所有者などが行う改修工事には、工事の内容によって国や自治体から費用の補助が受けられる。

そして、この住宅に入居を希望する住宅確保要配慮者へは、自治体や収入によってその金額は異なるが、家賃補助が用意されている。また、これらの住宅に入居を希望する人が対象の住宅を探しやすいように、インターネット上で入居者募集情報の検索から入居の申込申請までできるシステムも備えられている。これが「セーフティネット住宅情報提供システム」だ。2022年5月時点で登録されている住宅は、全国で約74万戸となっている。

住宅の品質に基準を設け、住宅確保要配慮者が低廉な家賃で、これらの住宅に入居できるこの制度。また自治体によっては家計の負担となる高い家賃の物件から住み替えしたい人など向けに、住み替え支援補助金も用意されている。

「まだまだ多くの方に周知されていないのがこの住宅セーフティネット制度です。しかし、住宅を貸す側である空き家を活用したい人、借りる側である低廉な家賃の住宅を必要としている人、双方にとってメリットが大きい制度です。多くの方に認知され利用者が増えてほしいと思います」(峰尾さん)

介護サービス提供から楽しむための施設まで、多様な高齢者向けの住まい



上記で紹介した住宅は、いわゆる高齢者などの住宅確保要配慮者に向けた一般的な賃貸住宅だ。健康上の問題で日常生活が制限されることなく暮らすことができるまでを健康寿命と呼ぶが、高齢者になれば誰もが健康的に寿命を全うできるとは限らない。当然住宅でのケアや介護が必要になることも多い。そんな人を対象にした、介護保険による介護や支援、さまざまなサービスの付加を前提とした住まいも数多くある。

以下、高齢者に向けたさまざまな住宅の特徴をまとめた。

シニア向け分譲マンション

通常の分譲マンション同様、区分所有権が販売される。後述する各住宅と違い、シニア向け分譲マンションを規定する法律等はないが、食事や、見守り、緊急時の対応などが月々のサービス料によって提供されることもある。
健康寿命を延ばすために、入居者がアクティブに活動できるさまざまな共用施設が備えられている施設も多い。

有料老人ホーム

介護保険による介護サービスや要支援サービスが受けられる介護型と、食事などの生活支援に限ったサービスを提供する住宅型に大きく分かれる。入居金(権利金)の支払いによって入居でき、サービス内容に応じた月額料金が必要となる。介護型の場合は、介護サービス費の自己負担分が加わる。民間企業が多く参入し、サービスの種類や入居条件等はさまざまである。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

2011年に改正された高齢者住まい法に基づいて導入された、安否確認サービスおよび生活相談サービスといった見守りサービスが付いた高齢者向けの賃貸住宅。食事の提供や外部からの介護サービスが受けられる場合もある。最近では自身で身の回りの世話ができる人から、比較的介護度の低い要介護者の入居を想定しているものもある。

特別養護老人ホーム(特養)

要介護度の高い人(原則要介護3以上)が、介護保険による介護を受けながら長期入居できる公的施設。自治体や社会福祉法人の運営で利用料は安いが、入居待機者が多い。特養については、老人福祉法で定められている。

さまざまな付帯設備を持ち健康寿命の延伸を目指す施設も

健康寿命のその先まで見据えたライフプランを

峰尾茂克さん:ファイナンシャルプランナー(CFP)・宅地建物取引士。株式会社 THE FP コンサルティング 代表取締役、一般社団法人理想の住まいと資金計画支援機構 代表理事
テレビ・ラジオ出演の他、新聞・雑誌の取材協力、不動産関連の書籍を出版。住まいと暮らしに関する講演や相談を全国各地で多数行う。過去15年間のセミナー実績は1,000回以上、受講者数は3万人以上にのぼる

高齢者住まい法、正式には高齢者の居住の安定確保に関する法律によってサ高住が生まれたが、加えて、地域優良賃貸住宅として高齢者のみならず障がい者世帯や子育て世帯などの居住の安定に向けて、配慮が必要な世帯に賃貸住宅を供給する制度も生まれている。

これとは別に、高齢者を対象とした補助制度も各自治体で行われている。
例えば、千葉県船橋市では、市内に居住している高齢者が、身体的・経済的な理由等によって住環境を改善するため市内の別の賃貸住宅に住み替える場合に、助成(上限15万円)を行っている。サ高住への入居に家賃減額補助を行う自治体もあり、所得や資産などの条件にもよるが、大阪府では月額2万円、東京都では月額最大4万円の家賃が減額される。
高齢者に限らず、住宅に困る人に対する家賃補助などの支援は、自治体ごとに異なるため、情報収集には高齢者の居住問題に詳しい地域のファイナンシャルプランナーなどに相談するのも方法だ。

健康寿命をできるだけ延ばし、健康で安全な生活を続けるために、上記で紹介したような、さまざまな住まいから、適した住まいを選びたいものだ。

峰尾さんは「将来にわたって自分は何をしたいのか、どんな生活をしたいのかを考えることが大切です」と強調する。まずは、自身のライフプランを考えることから始めてみてはどうだろうか。

しかし、これらの住宅を利用するためには、一定の資金が必要なのは言うまでもない。高齢期の住宅の確保を考えたとき、避けて通れないお金の問題。
「どんな資金が必要なのかを見極めて、収支のバランスを保つ方法をぜひファイナンシャルプランナーなどの専門家と相談してほしい」と峰尾さんは言う。


「高齢者の住まいを考える」シリーズの次回は、高齢期にまとまった資金を用意する方法について、引き続き峰尾さんに話を伺う。

ライフプランをもとに老後の資金計画を

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