認知症になりやすい人の特徴を、本章から4つに分けて紹介します。まずは、認知症になりやすい「性格」の特徴を見てみましょう。
些細なことが気になる人
小さいことが気になる神経質な人は、周囲の目を意識し、他者との交流を避けて引きこもってしまうケースがあります。また、些細なことでストレスや不安を感じやすいでしょう。
引きこもりがちになることや、ストレス・不安を過度に感じる生活を送ることは、認知症を引き起こすきっかけの一つです。また、他者とのかかわりが希薄だと、認知症の初期症状に気付いてもらえないリスクもあります。
怒りっぽい人
納得できないことがあるとすぐに怒鳴ってしまうような短気な人は、周囲の人から避けられてしまい、コミュニケーションをとる機会が少なくなるでしょう。
他者とのかかわりが減ると、社会的に孤立しやすくなります。その結果、脳への刺激がなくなり、認知機能が低下して認知症につながります。
何でも自分でこなそうとする人
研究結果から、責任感・自制心・勤勉さがある性格の人は、認知症になりにくいといわれています。「何でも自分でこなそうとする人」は、この条件に当てはまるため、認知症になりにくいと思うかもしれません。
しかし、周囲の助けを必要としなかったり、すべて自分で完結しようとしたりする傾向があると、他者とのコミュニケーションが希薄になりやすいと考えられます。怒りっぽい人と同様に、他者との交流が減ると脳が刺激されにくくなり、認知症を招きやすくなるため注意が必要です。
認知症になりやすい人の特徴(2)生活習慣
続いて、認知症になりやすい「生活習慣」の特徴を紹介します。
食生活が乱れている人
糖分や塩分、脂質の多い食事を続けていると、高血圧や糖尿病といった生活習慣病のリスクを高めます。
例えば高血圧は、脳梗塞や脳出血などの脳に関する病気を引き起こす原因となるため、「脳血管性認知症」になりやすいでしょう。また、糖尿病となることで「アルツハイマー型認知症」の原因とされるアミロイドβの分解が減少する可能性があり、結果的に認知症のリスクを高める可能性があります。
よって、食生活の乱れは、認知症の発症リスクを高めると考えられます。
運動や睡眠が不足している人
運動不足の生活は、筋力低下を招きます。すると、思うように体を動かせなくなり、徐々に行動が制限され、脳が刺激される機会が減ってしまうのです。
また、睡眠時間が短い人は、長い人と比べて認知症の発症リスクが高いとの研究結果があります。睡眠不足に加え、昼夜逆転の不規則な生活なども望ましくありません。
アルコールやスマートフォンに依存している人
アルコールやスマートフォンへの依存は、若年性認知症になりやすい人の特徴でもあります。現在の年齢に関係なく、注意しましょう。
アルコールへの依存
お酒の飲みすぎは、アルコール依存症とともに「アルコール性認知症」を引き起こす原因です。具体的には、アルコールを過剰に摂取することで栄養を吸収しにくくなり、脳の萎縮や機能低下を招き、認知症へとつながります。
また、アルコールの過剰摂取が脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を引き起こし、認知症へとつながるともいわれています。
スマートフォンへの依存
生活に欠かせないスマートフォンなどIT機器の長時間使用は、脳の機能低下を招く要因の一つです。
具体的には、IT機器に依存した生活をしていると、脳にたくさんの情報が入ってくる一方で、脳で考えて情報を出す習慣が減ってしまいます。その結果、記憶が曖昧になる・物事を思い出せなくなる、といった状態に陥ってしまうのです。
このように、スマートフォンなどへの依存が引き起こす認知症は、「デジタル認知症」や「スマホ認知症」と呼ばれます。
認知症になりやすい人の特徴(3)病気・怪我
認知症の発症には、病気や怪我が影響する場合もあります。例えば、先述した高血圧や糖尿病のほかに、歯周病や慢性腎臓病などを患っている人も、注意しなければなりません。
歯周病は、口内に細菌が繁殖して歯肉(歯ぐき)が炎症を起こしたり、骨が溶けたりする病気です。歯周病が進行すると、歯を失うなどして噛む力が弱まり、脳への刺激が減ります。さらに、歯周病菌はアルツハイマー型認知症の原因となる「アミロイドβ」を蓄積させるため、認知症になりやすいとされています。
一方の慢性腎臓病は、腎機能が低下する病気です。腎機能が低下すると、不要な物質が体内に溜まってしまい、脳の認知機能の障害を招く可能性があります。
このほかに、事故で頭を強くぶつけるなど、外的な要因で脳を損傷することも認知症につながる要因の一つです。
認知症になりやすい人の特徴(4)遺伝的要素
家族に認知症の方がいる場合には、遺伝が気になることでしょう。
アルツハイマー型認知症には、遺伝と関係のない「孤発性」と、遺伝が関係する「家族性」があります。親が家族性のアルツハイマー型認知症の場合、子どもは2分の1の確率で認知症になると予想されています。
ただし、アルツハイマー型認知症の9割は孤発性とされるため、全体で見れば認知症が遺伝するケースは稀です。不安な方は、病院で遺伝子検査(血液検査)をすることも検討してみるとよいでしょう。
認知症は予防できる?
現状、認知症を完全に予防するのは難しいと考えられます。
ただし、認知症は生活環境の影響が大きいため、生活習慣をあらためるなどして、ある程度予防することは可能です。早い段階から認知症予防を行なえば、発症リスクを抑えられるでしょう。
認知症になりやすい人の特徴に当てはまる方や、認知症への対策を始めたいと考える方は、次章「認知症予防のために心がけるべきこと」の内容をぜひ参考にしてください。
認知症予防のために心がけるべきこと
ここでは、認知症の予防に向けて、日常生活で意識すべき点を7つ紹介します。
認知症のサインを見逃さないようにする
認知症は、早期発見が大切です。認知症を早期発見するためには、普段から認知症のサインを見逃さないようにしましょう。
認知症のサインには、以下のようなものが見られます。
• もの忘れがひどくなる
• 感情がコントロールしにくくなる
• 無気力になる
• 集中力・判断力が低下する
• 忘れ物が増える
• 現在の場所や時間、約束の場所や時間がわからなくなる など
上記のような変化が見られたら、早めの受診を検討してください。
毎年健康診断を受ける
認知症のセルフチェックだけでなく、定期的に健康診断を受け、心身の健康状態を客観的に把握することも重要です。健康診断を受ければ、自覚症状のない病気の進行にも気付けます。
特に、認知症のきっかけにもなる生活習慣病のリスクが高いと診断された場合には、医師の指導のもと、生活習慣を改善しましょう。
しかし、医療機関を受診するのはハードルが高いと感じる方もいるかもしれません。受診の抵抗を減らすためには、かかりつけ医を決めて慣れておくとよいでしょう。
食生活を見直す
健康を維持するには、栄養が不足している状態も、栄養を摂りすぎている状態も望ましくありません。糖分・塩分・脂質の多い食事を避け、適切な摂取カロリーの範囲内で、栄養バランスのとれた食事をしましょう。
例えば、肉ばかりでなく青魚を食べる、緑黄色野菜や果物を積極的に食べるなどの工夫が挙げられます。
栄養バランスを考えたり、品数を増やしたりするのが負担になる場合は、健康に配慮した配食サービスを活用する方法も有効です。
ただし、自分でレシピを考えて料理することは、脳への良い刺激となり認知症予防につながります。配食サービスを活用しつつ、できる範囲で自炊も心がけましょう。
運動習慣を身に付ける
運動には、軽めの負荷で長時間継続できる「有酸素運動」と、短時間に大きな力を必要とする「無酸素運動」があります。
認知症予防の観点からは、ウォーキングやジョギングなど、気軽に行える有酸素運動が効果的です。強度が比較的低い運動は、適度に脳へ刺激を与えつつ、ストレス発散にもつながります。
運動習慣がない方は、まず週1回のペースを基本とし、無理のない範囲で取り組みましょう。継続しやすくするために、家族や友人とともに運動するのもおすすめです。
質の良い睡眠をとる
個人差はあるものの、認知症の予防に効果的な毎日の睡眠時間は、だいたい6~7時間といわれています。先述のとおり、睡眠不足だと認知症の発症リスクが高まるため、注意が必要です。ただし、必要以上に睡眠をとることも避けましょう。
アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβは、質の良い睡眠によって脳の外へ排出されます。したがって、適切な睡眠時間の確保とともに、睡眠の質の良さも意識することが大切です。
質の良い睡眠のためのポイントは、次のとおりです。
• 規則正しい生活を送る
• 寝室の温度・湿度を適切に保つ
• 自分の体に合う寝具を選ぶ
• 長時間の昼寝や夕方以降の昼寝は避ける
• 就寝の2~3時間前に入浴する
• 起床後は日光を浴びて体内時計をリセットする
気分転換できる楽しみを見つける
ストレスは、認知症を含めたさまざまな体の不調につながります。そのため、ストレスを感じやすい性格の方は、意識的に気分転換するとよいでしょう。
ストレスを効果的に発散できる方法は、人によって異なります。次のような方法のなかから、自分に合うものを見つけてみるとよいですし、ここで挙げたもの以外でもストレスの発散方法はそれぞれで、自分で探してみるとよいかもしれません。
• 天気の良い日に散歩する
• 自然の多い場所で軽めの運動をする
• 趣味に没頭する
• ぬるめのお風呂にゆっくりとつかる
• 瞑想する
知人や友人と交流する機会を設ける
他者とのコミュニケーションは脳へ良い刺激をもたらし、認知症予防につながります。また、自分の悩みなどをアウトプットする機会にもなるため、ストレス解消による認知症予防効果もあるでしょう。
ただし、なかには社交的な性格でない方や、たくさんの人とかかわることがかえってストレスになる方もいるはずです。そのような方は、無理に交流範囲を広げるのではなく、気が合う人や共通の趣味がある人など、特定の範囲でコミュニケーションをとりましょう。
認知症になりやすい人の特徴を知って予防に努めよう
下表に、認知症になりやすい人の特徴をまとめました。
性格 | · 些細なことが気になる人· 怒りっぽい人· 何でも自分でこなそうとする人 |
生活習慣 | · 食生活が乱れている人· 運動や睡眠が不足している人· アルコールやスマートフォンに依存している人 |
病気・怪我 | · 高血圧・糖尿病・歯周病・慢性腎臓病などを患っている人· 外的な要因で脳を損傷した人 |
遺伝的要素 | · 親が家族性のアルツハイマー型認知症の人 |
これらの特徴に当てはまる場合は、食生活・運動習慣・睡眠を見直したり、他者と積極的にコミュニケーションをとったりして、早い段階から認知症の予防に努めましょう。併せて、セルフチェックや健康診断により、心身の健康状態を定期的に確認します。
認知症は多くの方が発症する病気です。そのうえ、認知症の介護費用は大きな負担になる傾向があるため、認知症予防に努めつつ、万が一に備えることが大切です。
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